いまなお激戦地に放置される兵士の遺骨ー

あの作曲家の三枝成彰さんが、こんなすごい人だとは、失礼ながらこれまで全く知らなかった。

 2011年から有志団員を募って、かつてのアジアの激戦地を巡る「慰霊献歌の旅」を行っているという。その名を三枝さんが団長を務める”六本木男声合唱団ZIG-ZAGという。8月29日付日刊ゲンダイ紙上の記事である。

 かの第二次世界大戦中にアジアの各地で命を落とした人の数、なんと350万人に上るといわれ、その中でいまだ遺骨収集がされない旧日本軍兵士の数は110万柱に及ぶという。その魂に、日本の唱歌を届ける旅だ。

 これまでに訪れた先はレイテ島、ガダルカナル島ペリリュー島マーシャル諸島のクェゼリン島、そしてインパール作戦でつとに知られるミャンマーの白骨街道とアラカン山脈だという。

 いずれも75年前に、重装備で行軍を強いられた兵士たちの眠る無念の場所である。

収集されない限り、英霊が祖国に帰ってくることはない。どんなにか帰りたかったことだろうに。兵士の皆さん、三枝さんたちの歌声は聞こえましたか。

 彼らを死に追いやった指導者たちの多くが責任を逃れて戦後も生き延びたことを思うとき、110万柱という途方もない戦死者たちは、はたして生き延びた彼らのことをどう思うのだろうか。

 故郷の懐かしい日本の歌、せめてひと時、心を安んじてください。

 亡くなった兵士たちの多くが、餓死や戦病死であるという。そうして死ぬのは一兵卒ばかり、尉官以上の指導者たちは、なぜ生きのこったのか。死滅と生存を分けるものはなんだったのだろう。

 「戦陣訓」は「生きて虜囚の辱めを受けず」という。そんな訓話も上官は対象外らしい。上官と一兵卒、この、この上もなく非常な構図を理解することは決してできない。

私も叶うならば、この慰霊献歌の旅に参加してみたいと思う。

(了)